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【沖縄のおばあの話】


私がマッサージ師になる前のこと。

人の手が持つ「力」を、初めて実感したときのお話です。


私は、前職の仕事で沖縄に出張しました。

当時の私はひどい頭痛持ちで、出発の日も吐き気がするくらいひどい頭痛でした。

それでもなんとか空港に行き、同行する旅行会社の社員と合流しました。

会ってすぐに、「頭痛がひどい」と伝えましたが、聞き流されました。

頭痛って、軽く見られがちですよね(笑)。

薬も全く効きませんでした。


同行者は仕事の鬼で、すごいペースで移動し、遅れると怒られました。吐き気を我慢しながら、ようやくその日の仕事を終え、ホテルにチェックイン。

私はわらをもつかむ思いで、フロントで、

「マッサージをお願いします」

と言いました。



30分後くらいでしょうか。

部屋で横になって頭痛に耐えていると、マッサージさんが来ました。

70代くらいの小柄なおばあでした。

ニコニコして、沖縄訛りでしゃべる、優しそうなおばあ。

私は、とにかく頭が痛いのだ、と訴えました。

おばあは、それは大変だったねえと言いながら、マッサージの準備をしました。


おばあは、私の肩や頸に触れ、これはひどい肩こりだ、それは頭も痛くなるわけだ、みたいなことを言いながら、頸を指圧し始めました。

おばあですし、強く押しているわけではありません。もんだりこねたりするわけでもなかったと思います。

しかし、どういうことか、おばあの指が押したところから、ジワーッと温かさが広がり、コリがほぐれていくのがわかるような気がしたのです。


押す場所を変えるたび、同じ感覚が広がり、何だこの人、こんなマッサージさん会ったことない、と心の中で思っていました。

しかし、おばあは「私はゴーヤーとナーベラーがあれば、ほかは何も要らないさー」みたいなことを言いながらマイペースでゆっくりと指圧を続けていました。

今でもはっきり覚えていますが、おばあの指圧が進むにつれて、どんどん頭痛が消えていきました。


いつの間にか私は眠っていて、目覚めると1時間を10分ほど過ぎた頃でした。マッサージは60分しか頼んでいないので、あわてておばあに「すみません、寝てしまいました!」と謝ると、おばあはにっこり笑って

「お兄さん、すごく疲れてるようだったから、ちょっと長めにやっといたよー」

とおっしゃいました。


気づくと、頭痛は嘘のように治っていて、このとき私は、人の手が持つ力はすごいものだと実感しました。


次の日、チェックアウトでフロントの女性に、

「昨日来てくださったマッサージのおばあちゃんがとっても親切で、上手で」

と言うと、プロ野球のキャンプがあると選手の間で取り合いになるくらい人気なのだと教えてくれました。


今でも時々、温泉やホテルでマッサージを頼みますが、おばあ以上のマッサージ師に出会ったことはありません。


そして、私がマッサージ師を目指すきっかけのひとつは、あのおばあだったのです。 道具も薬も使わず、具合が悪い人を助けられる。

こんなに素敵な仕事はない、と思いました。


あの頃は自分がマッサージ師になるなんて、想像もしていませんでした。

今になると、なぜお名前を聞いておかなかったのか、残念でなりません。

今、おばあの施術を受けたら、きっといろいろ学ぶことがあっただろうに、そう思えてなりません。



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